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なぜ、あなたの健康機器はタンスの肥やしになるのか?

「渾身のプロダクトが、なぜかユーザーに継続してもらえない…」
健康機器の開発プロジェクトで、こんな壁にぶつかった経験はありませんか?高機能なセンサー、洗練されたアプリ、革新的なアルゴリズム。すべて完璧なはずなのに、アクティブユーザー数は伸び悩み、気づけば解約率のデータとにらめっこ。…なんてこと、結構「あるある」なんですよね。
多くの開発チームが、その原因をアプリの機能やデザインに求めがちです。もちろんそれも重要。でも、もしかしたら、本当の問題はもっと別の場所…つまり、物理的な『機器』と『アプリ』の“すきま”にあるのかもしれません。
この記事では、競合が見落としがちな「機器連携」という視点を中心に、ユーザーから本当に愛され、長く使ってもらえる健康機器のUI/UX改善について、現場で使える具体的なポイントを掘り下げていきます。もう「使われないプロダクト」で悩みたくない開発者、PMの皆さん、必見です。
数字が語る「継続利用の壁」と“体験全体”の重要性
少し厳しい現実からお話ししますが、これが我々のスタート地点です。調査によると、世の中にある35万以上の健康アプリの多くは、リリース後わずか2週間でユーザーの70%以上を失うと言われています。(出典: IQVIA Institute)
なぜでしょう?理由は単純で、多くの製品が「機能の提供」に終始し、「心地よい体験の提供」に失敗しているからです。特に健康機器は、ユーザーの生活に溶り込んで初めて価値を発揮します。その最初のハードルが、箱から出して電源を入れる、あの瞬間から始まっているんです。
| 課題領域 | ユーザーが感じるストレス | ビジネスへの影響 |
|---|---|---|
| 機器連携 | 「またペアリング失敗…」「データが飛んでない!」 | 初期離脱、低評価レビュー |
| ハードウェア | 「ボタンが小さい」「表示が見えない」 | 高齢者層の離脱、利用頻度の低下 |
| データ入力 | 「入力が面倒くさい」「何が何だか分からない」 | データ不整合、継続モチベーションの喪失 |
見ての通り、問題はアプリ画面の中だけでは完結しません。私たちが向き合うべきは、ユーザーが機器を手に取り、アプリを開き、日々の生活で使い続ける、その一連の体験(ジャーニー)全体の設計なのです。さあ、ここから具体的な改善の旅を始めましょう。
ROIの算出方法が知りたい方は、こちらの記事『UI/UX改善のROI算出完全ガイド』も参考にしてみてください。
要点1:悪夢のペアリング体験よ、さようなら!シームレスな機器連携の設計

健康機器UXの最初の関門にして、最大の離脱ポイント。それがBluetoothペアリングです。ここでユーザーにつまずかせてしまうと、もう二度とアプリを開いてくれないかもしれません。
「接続をタップ→グルグル…→失敗」。このループ、ユーザーにとっては悪夢以外の何物でもありませんよね。これを解決する鍵は「ユーザーに何も考えさせない」設計にあります。
成功のポイント
- とにかくシンプルに: アプリを開いたら自動で機器を検知し、ワンタップで接続完了、が理想。QRコードを読み込むだけ、なんていうのも良いアプローチです。
- 進捗の可視化: 「デバイスを探しています…」「接続中…」「完了!」など、今何が起きているかを分かりやすく伝えましょう。アニメーションを使うと、待ち時間のストレスを軽減できます。
- エラー時の丁寧な誘導: 失敗はつきもの。だからこそ、「Bluetoothはオンですか?」「機器の電源を確認してください」のように、具体的な次のアクションをイラスト付きで優しくガイドすることが重要です。
私たちがご支援したプロジェクトでも、この初期設定フローを徹底的に磨き込み、離脱率を大幅に改善した経験があります。地味に見えますが、ここの改善効果は絶大ですよ。
要点2:そのボタン、押せますか?お年寄りも安心のハードウェアUI
アプリのUI/UXにこだわるのは当然ですが、忘れてはならないのが機器本体(ハードウェア)の使いやすさです。特に、健康機器の主要なユーザー層である高齢者にとって、物理的な使い心地は生命線。
考えてみてください。夜中に血圧を測ろうとした祖母が、小さくて固いボタンや、バックライトのない液晶画面に四苦八苦している姿を。これでは、どんなに優れたアプリがあっても使ってもらえませんよね。
ハードウェアUI設計のチェックリスト
- ボタン: 十分な大きさか?軽い力で押せるか?押した感覚(クリック感)は明確か?
- ディスプレイ: 文字や数字は大きく、コントラストも十分か?暗い場所でも見えるバックライトはあるか?
- 音・振動: 測定完了やエラーを知らせる音や振動は、分かりやすいか?(聴力が低下したユーザーも想定)
- 形状: 持ちやすいか?滑りにくい素材か?充電ケーブルは差しやすいか?
総務省の調査では、70代のスマホ保有率は約60%(令和5年)。まだまだデジタルに不慣れな方も多いのが現実です。画面の中のデザインだけでなく、プロダクト全体を「一つのUI」として捉える視点が、幅広いユーザーに愛される秘訣です。
要点3:面倒な規制は「信頼」の証。安全を築く規制準拠デザイン
「規制対応、正直ちょっと面倒…」
ヘルスケア領域の開発者なら、一度はそう思ったことがあるかもしれません。薬機法や個人情報保護法、そして医療機器のユーザビリティに関する国際規格IEC 62633など、守るべきルールは山積みです。
でも、ちょっと視点を変えてみませんか?これらの規制は、ユーザーの安全を守るための最低限の約束事。つまり、規制を遵守することは、ユーザーからの信頼を得るための最高のブランディングでもあるのです。
例えば、IEC 62633では「ユーザビリティエンジニアリング」というプロセスが求められます。これは、製品の使用によって発生しうる危険(リスク)を特定し、それを設計によって低減していく活動です。これはまさにUI/UXデザインそのもの。
- 誤操作防止: 重要な操作の前には確認ダイアログを出す。
- 分かりやすさ: 専門用語を避け、誰にでも理解できる言葉で情報を提供する。
- データ保護: プライバシーポリシーを分かりやすく提示し、ユーザーが安心してデータを提供できる環境を作る。
面倒な規制対応を「守りの一手」と捉えず、「信頼を勝ち取る攻めの一手」としてUI/UX設計に組み込む。この発想の転換が、競合製品との大きな差別化に繋がります。
要点4:誰も置き去りにしない。多様な利用者を包摂するアクセシビリティ
「ターゲットユーザーを明確に」というのはマーケティングの基本ですが、こと健康機器においては、そのターゲットが非常に多様であることを忘れてはいけません。
若くて健康な人だけがユーザーではありません。むしろ、特定の疾患を持つ方、視力や聴力に不安のある方、一時的に腕を怪我している方など、様々な状況のユーザーが製品を使います。「誰もが使える」のではなく、「誰もが“排除されない”」デザイン、それがアクセシビリティの考え方です。
具体的な設計への落とし込み
| 配慮する対象 | UI/UXデザインのポイント |
|---|---|
| 視覚(色覚特性、弱視など) |
|
| 聴覚(難聴など) |
|
| 操作(手の震え、握力低下など) |
|
こうした配慮は、特定のユーザーのためだけのものではありません。例えば、コントラストの高い画面は、直射日光の下でスマートフォンを見る健常者にとっても見やすいですよね。アクセシビリティの向上は、結果的にすべてのユーザーの満足度を高めるのです。
要点5:三日坊主を卒業させる!行動変容を促すエンゲージメント設計
さて、ここまでの4つの要点で、ユーザーがストレスなく、安心して使える土台ができました。最後の仕上げは、ユーザーが「楽しく続けられる」仕組み、つまりエンゲージメントを高める設計です。
健康管理は、正直言って地味で面倒なことの連続。だからこそ、UXデザインの力で、そのプロセスに彩りを与えてあげる必要があります。計測データを無味乾燥なグラフで見せるだけでは、ユーザーの心は動きません。
モチベーションを高めるアイデア
- ポジティブなフィードバック: 「目標達成!素晴らしい!」「昨日より歩数が伸びていますね!」など、小さな成功を褒めてくれる仕組み。キャラクターが応援してくれるのも良いですね。
- ゲーミフィケーション: 連続記録でのバッジ獲得、目標達成でのポイント付与など、ゲーム感覚で楽しめる要素を取り入れる。
- ソーシャル機能: 家族や友人と進捗を共有し、励まし合う機能。孤独な戦いではなく、誰かと繋がっている感覚は強力なモチベーションになります。
ここで重要なのは「おせっかい」にならないこと。ユーザーの状況や気分に合わせて、通知の頻度を調整できるなど、ユーザー自身がコントロールできる余地を残しておくことが、長期的な関係を築くコツです。
まとめ:最高の健康体験は、優れた「翻訳者」から生まれる

これまで見てきたように、成功する健康機器のUI/UX改善は、単一の視点では成し遂げられません。
ビジネスの言葉 ↔ 規制の言葉
これらすべてを理解し、ユーザーにとって最も心地よい「体験」という形に翻訳していく。それが私たちの役割だと考えています。
もし、あなたのチームが「機器連携の壁」「ハードウェア設計の悩み」「規制対応とUXの両立」といった課題に直面しているなら、それはプロダクトが大きく飛躍するチャンスです。
より良い健康体験を、一緒に創りませんか?
この記事で紹介した5つの要点が、あなたのプロジェクトを成功に導くための一助となれば、これほど嬉しいことはありません。より具体的なご相談や、実際のプロジェクト事例についてご興味があれば、ぜひお気軽にお声がけください。一緒に、人々の日々を本当に豊かにする健康体験を創り上げていきましょう。






