プロジェクト概要
| クライアント | パナソニック エンターテインメント&コミュニケーション株式会社 |
|---|---|
| プロダクト | エンタメ運動サービス『テレさんぽ』 |
| 業界 | ヘルスケア・介護・家電メーカー新規事業 |
| 支援内容 | UXリサーチ/現地調査/ワークショップ設計・運営/カスタマージャーニーマップ/ワイヤーフレーム再設計/デザインガイドライン策定 |
| 体制 | クリエイティブディレクター + UIUXデザイナー |
パナソニック株式会社が手掛けるエンタメ運動サービス「テレさんぽ」。リリースから1年、チームが向き合っていたのは「多種多様な介護現場のニーズを、どうプロダクトの改善に繋げていくか」という課題でした。
核となるユーザー体験をどう定義し、利用者やスタッフの方々が使いやすく、楽しいデザインへと生まれ変わっていくのか。外部の視点を取り入れることで生まれた変化と、その共創のプロセスを座談会形式で紹介します。
「テレさんぽ」ウェブサイト:テレさんぽ 製品ページ TOP | Panasonic EC Biz Store
パナソニック・picks designの3名による座談会。リリース後の改善プロセスを振り返る。
登場人物
- パナソニック株式会社 平山さん: サービスデザイナー
- picks design 代表 松浦: クリエイティブディレクター
- picks design 須山: UXデザイン・リサーチ担当

リサーチからデザインまで、一気通貫で伴走したチームの面々。
1. 「誠実さ」ゆえに直面した、UIの「堅さ」という壁
―――まずは『テレさんぽ』誕生の経緯を教えてください。
平山さん(パナソニック)
元々は「レイアウトフリーテレビ」という足つきのテレビをどう売るか、という社内ワークショップが起点でした。「テレビに映る景色を見ながら散歩して運動する」というアイデアがテレさんぽの原点になりました。
松浦(picks design)
平山さんとはイベントでの出会いをきっかけに、改善のご相談をいただいたんですよね。
平山さん(パナソニック)
そうそう。開発時点から実証実験を行ったり、現場の話を聞いたりしながら作ってはいたんですが、やっぱり使いにくい部分が残っていて。パナソニックの商品って、「真面目」な商品が多いので(笑)。遊び心やかっこよさよりも、「正しさ」や「誠実さ」が正解になりがちなんです。それは強みでもありますが、エンタメ性を求める領域では、固すぎてとっつきにくい感じがしちゃうんですよね。
松浦(picks design)
確かに。率直に言うと、第一印象はプロダクト全体に「精密機器の設定画面」のような匂いが漂っているな、と感じました(笑)。シンプルでわかりやすさはあっても、高齢者の方が景色を楽しみながら歩くという「エンタメ」の文脈からすると、かなり静的な印象だったので、もうちょっと面白いものにできたらなっていうのは素直に思いましたね。
須山(picks design)
私も最初に体験させていただいたとき、タブレット操作の世界観が少し硬いなと感じました。ITに不慣れな介護現場の利用者さんやスタッフさんにとって、心理的なハードルになっているのではないかという印象はありましたね。
平山さん(パナソニック)
カメラ、テレビ、レコーダーなど、文字情報が多くてロジカルなデザインが求められる商品が同事業部内に多かったので、どこかそういう匂いがあったのかもと思いますね。「エンタメ運動サービス」と掲げているものの、「文字を大きくして使いやすくしよう」といった機能的なアプローチで止まってしまっていたんです。
2. 新しい視点を取り入れ、「本当のあるべき姿」を突き詰める
―――社内にデザイナーがいる中で、あえて外部に依頼しようと思ったのはなぜですか?
平山さん(パナソニック)
当時、テレさんぽをユーザーの皆様に継続的に利用してもらうために、ゲームのような要素を入れたらどうか、という話も出ていたんです。一方で、「いや、そもそもそこをやる前にベースの使いやすさでしょう」という議論もあって。試行錯誤する中で、もっとお客様の声を聞きながら、テレさんぽのUXとして「本当にあるべき姿ってなんだろう?」という本質を突き詰めるべきだと考えました。
弊社としては前例の少ない、エンタメ性を前面に押し出したUXを実現するために、社外の知見から学ぼうという方針を立てました。
須山(picks design)
様々な会社さんが候補に上がったのではと思うのですが、その中でもなぜ弊社を選んでいただけたのか、素直に気になります(笑)。
平山さん(パナソニック)
はい。picks designさんは、継続的に伴走してくれて、UXリサーチからデザインまで一気通貫して進めてもらえることが決め手でした。UX設計だけを社内の別チームに依頼すると、デザイン工程でまた別の調整が必要になったりして煩雑になる。そこを一貫して、かつスピーディーに柔軟にサポートしてくれる存在が必要でした。
3. 現場に足を運んで「ユーザー体験の解像度」を上げ、「今、本当に集中すべきこと」を見極める
―――では、このプロジェクトでは、まず何から始められたのでしょうか?
須山(picks design)
まずは実際の施設にお邪魔しました。テレさんぽへの理解を深めると同時に、「どんな方に、どのような環境で、どう使われているか」のリアルを把握するため、ヒアリングだけでなく、実際に2つの施設へ足を運びました。テレビの配置や、スタッフの方の動き、スケジュールなど、現地に行って初めて分かることが多く、解像度が格段に上がりました。施設によってサービスの成熟度や環境も違っていて、ユーザー体験のどこがボトルネックになっているのか、多くの発見がありました。
平山さん(パナソニック)
現地調査は、私にとっても大きな学びでした。特に驚いたのが「質問の仕方」です。私自身は、つい想像を膨らませて踏み込んだ質問をしてしまいがちなのですが、あえて踏み込みすぎず、シンプルな質問で情報を集めて分析していく。「客観的に情報を集めて分析していく手法」によって、個人の思い込みを外すというプロセスは、すごく勉強になりました。
―――調査の直後に振り返りも行いましたね。
須山(picks design)
はい。Panasonicの営業の方やエンジニアの方も同席してくださり、現地調査で得られた気づきを共有することができとてもいい時間になりました。
平山さん(パナソニック)
社内には「誰かが集めてきた現場の声」は多くありましたが、それらの情報はバラバラに点在していました。現地調査を通して現場の声を再確認できましたし、最終的に「カスタマージャーニーマップ」という形で整理してくれたことで、情報が一元化され、時系列の中で相対的にその意味合いを把握できるようになった。情報が整理され、資産化できたことが、私たちにとって非常に大きな価値となりました。

作成したカスタマージャーニーマップ全体図。現場の声を時系列で整理し、ユーザー体験のボトルネックを可視化した。
―――調査結果を受けて、次に関係部署のメンバーを集めたワークショップを開催されました。当時はどのような課題感があったのでしょうか?
平山さん(パナソニック)
驚くほど多くの気づきを得られました。それが示しているように、多種多様な施設や利用者がいらっしゃる中で要望も多様化していて、どこを目指すべきかまとめきれなくなっていたんです。自分たちの「判断軸」をどう持って進めていけばいいのか、定めるのがすごく難しいなと痛感していました。
須山(picks design)
多種多様な施設や利用者がいらっしゃる中で、要望も多様化しているのは受け止めつつも、まずはリサーチで得た気づきを全員の共通言語にする必要があると考えました。開発や営業部門など各部署から様々な関係部署のメンバーの方にご参加いただくことになったので、盛りだくさんのカスタマージャーニーマップをそのまま出すのではなく、「価値観カード」や「課題カード」という手に取れる形に落とし込んで、誰もが直感的に議論に参加できるように工夫しました。
平山さん(パナソニック)
ワークショップ自体も非常にコンパクトかつ濃密で、参加した皆が良い時間を持てたね、という話をしていますよ。社内でやると半日や1日かけて議論して脱線しがちなんですが(笑)、今回はpicks designさんがセクションを分けながら進行してくれたおかげで、議論のポイントが明確でした。
―――実際のアイデア出しの場面はいかがでしたか?
平山さん(パナソニック)
カスタマージャーニーマップやカードを元に議論を始めたら、驚くほどたくさんのアイデアが出ました。将来的にこういう要素を入れたら面白いだろうなという未来のアイデアも含めて、非常に前向きでワクワクする議論ができました。実際のアクションを決めていくには、「今、私たちが本当に集中すべきところはどこか」という優先順位をつける必要がありました。表面的な機能という「枝葉」を増やす前に、体験のベースである「幹」を磨き込む。一元化された現場の声を、プロジェクトメンバー間で共有することで、UX改善の方向性を統一できました。

パナソニックの開発・営業など各部署のメンバーが一堂に会したUX共創ワークショップ。価値観カードを元に密度の高い議論が交わされた。
―――技術的な議論だけでなく、チームとしての結束も強まったようですね。
平山さん(パナソニック)
職能ごとに異なる価値観を持つプロジェクトメンバーが同じ空間で議論を尽くす時間を持てたことが、何より良かったです。各部署のメンバーが、お互いが大事にしている思いやその違いを共有できました。対面で顔を合わせて密度の高い議論ができたことで、継続的に議論していくような関係性を強くできました。そこが1番良かったかなと思いますね。
4. 良い意味で「らしくない」。誰もがポジティブになれるサービスへの挑戦は続く
―――ワークショップでの議論を経て、いよいよ具体的な設計へと進まれたのですね。
須山(picks design)
はい。議論して決まった方針をどう具体的なプロダクトに落とし込むか。主な体験の核となる部分の再設計(ワイヤーフレーム)と、今後の開発の土台となるデザインガイドラインの策定を並行して進めました。
須山(picks design)
このプロダクトは、利用者の方だけではなく、現場で支えるスタッフさんも使うものです。だからこそ、双方にとって使いやすいものであることが大前提でした。文字の読みやすさといったユニバーサルデザインの要素を徹底しつつ、リサーチで見えた現場に即した体験をベースに、いかにスタッフさんの「苦労や負担」を取り除けるか。さらに使っていて楽しいと感じる動きや反応などのインタラクションを加えていく。「使いやすさ」と「楽しさ」のバランスをどう取るか、チームで知恵を絞りました。
松浦(picks design)
最終的なアウトプットを平山さんにお見せした時に、「良い意味で、うちらしくないデザイン」という表現をされて(笑)。でも、それが最高の褒め言葉だなと思いました。新規事業のプロジェクトは、すぐに目に見える結果が出にくいことも多いですが、僕らが入る価値は、まさにそこにあると思っています。パナソニックさんの中だけではなかなか生まれない、「らしくない」けれどワクワクする価値をどう出せるか。それが僕らに求められていることだと改めて感じました。

コース選択画面・テーマ選択画面のBefore/After。直感的に伝わるイラストマップ、タッチ領域の明確化、日本語ボタンの拡大など、現場で使われる文脈に即した改善を施した。
―――では最後に、これからの株式会社picks design、そして『テレさんぽ』に期待することを教えてください。
平山さん(パナソニック)
介護の現場って、労働環境とか仕組みも含めて、どうしても今は一部の人に負担がかかりやすい構造になっているように感じます。そうした負担を、私たちのサービスでちょっとでも緩和できればと思っています。
利用者の方々が『テレさんぽ』を通じてポジティブに、前向きに楽しんでくださると同時に、そこに関わっている介護スタッフの方やご家族も一緒に楽しめる商品にしたい。現場のスタッフの方が、多忙な中でもポジティブに利用者さんに寄り添っている姿を見ていると、本当に頭が上がらない思いになります。
須山(picks design)
本当にそうですね。
平山さん(パナソニック)
完全に個人の思いなんですが、スタッフの方やご家族も一緒に楽しめる商品にしたいと強く思っています。施設の方とお話ししていても、『テレさんぽ』のコンテンツを喜んで使ってくれているスタッフさんがいらっしゃって。介護に携わる方にも、利用者さんと一緒に楽しんでもらえる、ちょっとした時間の余裕を感じてもらえる。そんなサービスを、これからも作っていきたいですね。
松浦(picks design)
平山さんのその想いには、僕らもすごく共感します。『テレさんぽ』を通じて、利用者さんもスタッフさんも、双方がポジティブになれる。そのために今後もお力添えができたら、私たちもすごく光栄だなと思います。

対話を重ねながら、新規事業のUXに本気で向き合うチーム。これからも介護現場の小さな喜びを増やしていく。
(構成・執筆:picks design 編集部)
編集後記
『テレさんぽ』のプロジェクトを通して印象に残ったのは、平山さんが繰り返し口にしていた「介護スタッフの方にも楽しんでほしい」という想いでした。プロダクトの先にいる一人ひとりの暮らし、体験を想像しながら、本気で良いものを届けようとするチームと伴走できたことは、私たちにとっても大きな財産です。
新しい挑戦には、社内だけでは見えにくい「外からの目線」と、リサーチからデザインまで一気通貫で動けるパートナーが必要になる瞬間があります。
picks designは、そうしたフェーズの伴走を得意としています。
こんな課題を抱えていませんか?
picks designは、名古屋・STATION Aiを拠点に、大企業の新規事業に 外からの視点 と ワクワクする発想 で伴走するUXデザインチームです。








