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手法を「知ってる」から「使える」へ。あなたのためのデザイン思考レシピ

「デザイン思考の手法、勉強したはずなのに、いざとなると何から手をつければ…」
ペルソナ、カスタマージャーニーマップ、プロトタイピング…。一つひとつの言葉は知っていても、自分のプロジェクトでどう活かせばいいか分からない。そんな風に感じていませんか?正直に言うと、多くのビジネスパーソンが同じ壁にぶつかっています。「知っている」と「使える」の間には、思ったより深くて長い川が流れているんですよね。
世の中にある記事のほとんどは、手法を一つひとつ紹介する「辞書」です。でも、あなたが本当に欲しいのは、美味しい料理を作るための「レシピ本」ではないでしょうか?
この記事は、単なる手法のカタログではありません。私たちpicks designが、BtoBのリアルな現場で「こういう目的の時は、この手法を、この順番で組み合わせる」という、具体的な「手法のレシピ」を大公開します。この記事を読み終える頃には、あなたの手元に、明日からチームで試せる実践的な処方箋が残っているはずです。
なぜ「目的別レシピ」が重要なのか? BtoBプロジェクトの現実

なぜ私たちは、単なる手法のリストアップではなく「レシピ」という形にこだわるのでしょうか。それは、実際のBtoBプロジェクトが、教科書通りには進まないからです。
BtoBでは、決裁者、管理者、現場の担当者など、立場の違う多くのステークホルダーが存在します。それぞれの「欲しいもの」が違う中で、プロジェクトを前に進めるには、「今、私たちは何を明らかにするために、この作業(手法)を行うのか」という目的を全員で共有することが不可欠です。
「とりあえず流行っているからペルソナを作ろう」では、誰も動きません。「開発チームと営業チームで顧客像がズレている、という課題を解決するためにペルソナを作る」という目的があって初めて、手法は強力な武器になります。
これからご紹介するのは、私たちが実際にプロジェクトで活用している3つの基本レシピです。ぜひ、貴社の課題という「お題」に対して、どのレシピが使えそうか考えながら読み進めてみてください。
レシピ1:ユーザーを「自分ごと」として深く理解するための手法
「ユーザーの気持ちが分からない」「チーム内で顧客像がバラバラ…」。これは、多くのプロジェクトが抱える根深い問題です。この目的を達成するための基本レシピがこちらです。
- 目的チーム全員が顧客を「自分ごと」として捉え、解像度の高い共通認識を構築する。
- 手法レシピ①ユーザーインタビュー → ②共感マップ → ③ペルソナ
| ステップ | 手法 | なぜこの順番か? |
|---|---|---|
| 1 | ユーザーインタビュー | すべての始まり。まずは現場へ行き、ユーザーの生の声、表情、行動を観察し、一次情報を収集する。憶測ではなく事実を集める。 |
| 2 | 共感マップ | インタビューで得た膨大でカオスな情報を、「見聞きしたこと」「考えたこと・感じたこと」などに整理し、インサイト(本音)を抽出する。 |
| 3 | ペルソナ | 整理されたインサイトを基に、架空のユーザー像を具体的に描き出す。これにより、チーム全員が「この人のために作る」という共通のゴールを持てる。 |
【実践事例:株式会社Arent様】
私たちがご支援したArent様のSaaS開発では、まさにこのレシピを活用しました。現場担当者へのインタビューから、「この操作で必ず一度マウスから手を離す」といった無意識の行動を観察。それを共感マップで整理し、「〇〇という口癖がある、38歳のベテラン担当者」という極めて具体的なペルソナを作成しました。このペルソナがあったからこそ、開発チームはユーザーに感情移入でき、本当に価値のある機能開発に繋がったのです。このプロジェクトの詳細は、以下の実績紹介ページでご覧いただけます。
レシピ2:サービス全体の「体験の流れ」を可視化する手法

「アプリの使い勝手は良いはずなのに、顧客満足度が上がらない」「部署間の連携が悪く、顧客に迷惑をかけている」。そんな時は、視点をプロダクト単体からサービス全体へ広げる必要があります。
- 目的ユーザーがサービスと出会ってから離れるまでの一連の体験と、その裏側にある業務プロセスを可視化し、問題点を特定する。
- 手法レシピ①カスタマージャーニーマップ → ②サービスブループリント
| ステップ | 手法 | なぜこの順番か? |
|---|---|---|
| 1 | カスタマージャーニーマップ | ユーザーの視点から、各タッチポイントでの行動、思考、感情の起伏を時系列で可視化する。顧客が「どこで」つまずき、「何に」不満を感じているかを発見する。 |
| 2 | サービスブループリント | ジャーニーマップで見えた顧客の体験の裏側で、自社の「どの部門が」「どのシステムを使って」「何をしているか」を可視化する。問題の根本原因を特定する。 |
【BtoBでの活用ポイント】
BtoBでは、購買担当者、導入担当者、実際の利用者など、複数のペルソナが存在します。それぞれのジャーニーを描き出すことで、「営業は良いことを言っていたのに、導入サポートの対応が悪い」といった、組織のサイロ化が生み出す顧客体験の溝を発見できます。これは、業務改革の強力な出発点となります。
レシピ3:アイデアを「最速・最安」で検証するための手法
「この新機能、本当にウケるだろうか?」「開発に数千万円かける前に、確証が欲しい」。不確実性の高い時代、いきなり大規模な投資をするのは賢明ではありません。
- 目的アイデアが本当にユーザーに価値を提供できるのかを、時間とコストを最小限に抑えて、素早く検証・学習する。
- 手法レシピ①ペーパープロトタイピング → ②インタラクティブプロトタイプ → ③ユーザビリティテスト
| ステップ | 手法 | なぜこの順番か? |
|---|---|---|
| 1 | ペーパープロトタイプ | 文字通り「紙」に画面イメージを描き、アイデアの骨子を検証する。数時間で作成・テストが可能で、修正も容易。コンセプトレベルの合意形成に最適。 |
| 2 | インタラクティブプロトタイプ | Figmaなどのツールを使い、クリックすると画面が遷移するような、より本物に近い試作品を作成する。具体的なUIの操作性や分かりやすさを検証する。 |
| 3 | ユーザビリティテスト | 実際のユーザーにプロトタイプを操作してもらい、その様子を観察する。「ここで迷った」「このボタンの意味が分からない」といった、作り手側では気づけない課題を発見する。 |
【驚きの費用対効果】
IBMの有名な研究によれば、開発初期にバグを修正するコストは、リリース後に修正するコストの100分の1だと言われています。プロトタイピングとテストは、まさにこの「手戻りコスト」を劇的に削減するための、最も費用対効果の高い手法なのです。完璧なものを作るのではなく、「学び」を得るために、どんどん試しましょう。
なぜ、これらのデザイン思考手法がビジネスを成長させるのか?
ここまで具体的な手法のレシピを見てきましたが、「本当にそんなことで成果が出るの?」と感じる方もいるかもしれません。その疑問に、客観的なデータでお答えします。
そもそも、デザインを重視する企業は儲かっています。マッキンゼーの調査では、デザイン先進企業はそうでない企業に比べ、収益成長率が2倍も高いことが分かっています。これは、ユーザーを深く理解し、仮説検証を繰り返すデザイン思考のプロセスが、無駄のない製品開発に直結するからです。
実際、IEEEの報告によると、開発者が費やす時間の実に50%が、本来回避できたはずの手戻りに費やされています。これは、初期のユーザー理解不足が原因です。私たちが紹介した「レシピ1:ユーザーを深く理解する」は、この50%の無駄をなくすための、極めて重要なプロセスなのです。
さらに、IBMがデザイン思考を全社導入した際のROI(投資対効果)は、なんと301%に達したとForresterは報告しています。これは、単に良い製品ができただけでなく、開発プロセスそのものが効率化されたことを示しています。
これらの手法は、フワフワした精神論ではありません。
ビジネスの無駄を徹底的に排除し、成功確率を高めるための、極めて合理的な経営戦略なのです。
まとめ:手法は「知る」から「使う」フェーズへ
この記事では、単なるデザイン思考の手法の紹介ではなく、BtoBの現場で成果を出すための「目的別のレシピ」という形で、具体的な実践プロセスを解説してきました。
重要なのは、個々の手法を覚えること以上に、「自分たちのチームは今、何を達成するために、どの手法を、どう組み合わせるべきか?」という問いを持つことです。
今回ご紹介した3つのレシピは、その第一歩を踏み出すための基本的な地図です。もし、「自分たちのケースでは、どのレシピが合うんだろう?」「もっと複雑な課題を抱えている」と感じたら、ぜひ私たちにご相談ください。
Arent様の事例のように、貴社も「複雑化した業務プロセス」「ユーザーに不評な社内システム」といった課題を、優れたUI/UXデザインで解決したいとお考えではありませんか?
picks designは、デザイン思考に基づいた徹底的なユーザーリサーチと高速な仮説検証を通じて、貴社のビジネス課題を解決し、事業成長に貢献するUI/UXデザインサービスをご提案します。
サービスの詳細や料金、さらに多くの実績については、以下のページで詳しくご紹介しています。まずはお気軽にご覧ください。








