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なぜ今、農業IoTで「UI」が重要なのか?画面の向こうに未来がある

「スマート農業、始めました!」…素晴らしい響きですよね。でも、ちょっと待ってください。鳴り物入りで導入した最新の農業IoTシステム、現場の皆さん、ちゃんと使いこなせていますか?
こんにちは!BtoB向けの業務システムUIデザインに長年携わっている専門家として、色々な現場を見てきました。そこで痛感するのが、「せっかくの高性能システムが、UI(ユーザーインターフェース)のせいで“宝の持ち腐れ”になっている」という現実です。
特に、日本の農業はベテラン勢が支えている世界。平均年齢67.8歳(※農林水産省, 2020年農林業センサス)という現場に、いきなり複雑なシステムを投入しても、正直なところ戸惑わせてしまうだけ。「なんかよく分からんから、今まで通りやるわ」となってしまうのがオチです。これって、本当にもったいないと思いませんか?
この記事では、単なる機能紹介ではなく、「現場で本当に“使える”UIとは何か?」という核心に迫ります。技術の話が苦手な経営者の方も、日々畑と向き合う現場の方も、ぜひ最後までお付き合いください。画面の向こうに、日本の農業の未来がかかっている、そんなお話です。
あなたの会社は大丈夫?よくある「使えないUI」失敗あるある
「うちのシステム、どうも現場に浸透しないんだよな…」そう感じているなら、それは従業員のせいではなく、システムのUIが原因かもしれません。ここでは、農業IoTシステムで陥りがちな「失敗あるある」をいくつかご紹介します。もし一つでも当てはまったら、要注意信号ですよ!
| 失敗パターン | 現場の声(想像) |
|---|---|
| 機能の詰め込みすぎ | 「ボタンが多すぎて、どれを押せばいいか分からない!結局、いつも使うのは1つか2つなのに…」 |
| 専門用語のオンパレード | 「“閾値(しきいち)を設定してください”って言われても、それが何かも分からん!」 |
| 屋外での視認性が最悪 | 「日差しが強いと画面が真っ白。いちいち日陰を探さないと見えないから、やってられないよ」 |
| 操作性が直感的じゃない | 「前の画面に戻りたいだけなのに、どこを押せばいいんだ?結局アプリを再起動…」 |
ぶっちゃけ、これらの問題は「開発者が現場を知らない」ことから生まれます。オフィスの快適な環境で作られたシステムが、土と汗にまみれた現場でそのまま通用するはずがないんです。
競合のサービス紹介記事を見ると、「多機能」「高精度」といった言葉は踊っていますが、こうした現場のリアルな課題に踏み込んだものはほとんどありません。だからこそ、私たちは声を大にして言いたい。農業IoTシステムのUIは、現場の“あるある”を理解することから始まるんです。
設計ポイント①【情報設計】データは「見せる」のではなく「伝える」ダッシュボード

さて、ここからが本題です。使えるUIを作るための5つのポイント、まず最初は最も重要な「情報設計」について。特に、あらゆるデータが集約されるダッシュボード画面がキモになります。
センサーが収集した膨大なデータ。これをただグラフや数値で並べただけでは、情報ではなくただのノイズです。大事なのは、「で、今、何をすべきか?」が一目でわかること。つまり、データを「見せる」のではなく、「伝える」設計思想が必要なんです。
良いダッシュボードの3つの条件
- 優先順位が明確: 最も重要な情報(例:水不足のアラート、病害虫の危険度)が一番目立つ場所に配置されているか?
- 文脈がわかる: 温度が「28℃」と表示されても、それが平年より高いのか低いのか分からなければ意味がありません。「平年比+3℃」のように、比較対象を示すことで初めてデータは意味を持ちます。
- 行動に繋がる: 「土壌水分量が低下」という事実だけでなく、「水やりのタイミングです」といった次のアクションを促すサジェストがあるか?
これは、私たちが手掛けた監視カメラシステムのダッシュボード設計にも通じる考え方です。数百台のカメラ情報を単に並べるのではなく、異常がある場所を地図上で赤く光らせることで、「どこで」「何が起きているか」を直感的に伝えました。このノウハウは、広大な圃場の状態を管理する農業IoTシステムにも、そっくりそのまま応用できると考えています。
設計ポイント②③【操作性・アクセシビリティ】お父さんも、お爺ちゃんも。誰でも使える工夫
次に、システムの「触り心地」に関するお話です。ポイントの2つ目「操作性」と3つ目「アクセシビリティ」は、特にベテラン勢が使いこなすための鍵となります。
操作性:農業の現場は“過酷な”利用シーン
農業の現場は、IT機器にとって決して優しくありません。これを無視した設計は、現場のストレスを増大させるだけです。
- ✅ 手袋モードは当たり前: 作業中にいちいち手袋を外すのは非現実的。ボタンやリンクは、指先だけでなく、手袋をした状態でも押しやすい十分な大きさを確保すべきです。
- ✅ タップミスを防ぐ余白: ボタン同士が近すぎると、押し間違いの元。各要素の周りには、ゆったりとした余白(マージン)を設けるのが鉄則です。
アクセシビリティ:ITへの苦手意識をなくす魔法
アクセシビリティとは、年齢や能力に関わらず、誰もが情報にアクセスしやすくするための設計思想です。これは「高齢者向け」というだけでなく、あらゆる人にとっての使いやすさに繋がります。
- ✅ 文字は大きく、ハッキリと: 細かい文字は、誰にとってもストレスです。特に屋外の明るい場所ではなおさら。読みやすいフォントと十分な文字サイズは基本中の基本。
- ✅ 色だけに頼らない: 「赤が危険、緑が安全」という表現は直感的ですが、色の見え方には個人差があります。色だけでなく、アイコンやテキストも併用して情報を伝えることが重要です。例えば、アラートにはベルのアイコン🔔を添える、といった工夫です。
こうしたアクセシビリティ設計については、以下の記事でさらに詳しく解説しています。
▶ 【2024年最新】アクセシビリティ対応UIUXデザインで顧客満足度を劇的に高める5つの実践方法
設計ポイント④⑤【視認性・フィードバック】“あっ!”という見逃しを防ぐ確実な伝達
最後の設計ポイントは、情報を「確実に受け取ってもらう」ための工夫、「視認性」と「フィードバック」です。
視認性:夏の太陽に負けない画面
「夏の炎天下、スマホの画面が反射して何も見えない…」。これは農業従事者にとって死活問題ですよね。画面の「見やすさ」は、作業効率に直結します。
- ☀️ ハイコントラストモード: 通常の白背景に黒文字だけでなく、黒背景に白文字といった「ハイコントラストモード」を選択できるようにするのが親切です。これにより、日差しの強い場所でも文字が読みやすくなります。
- LESS IS MORE 情報はシンプルに: 一つの画面に情報を詰め込みすぎないこと。屋外でパッと見て理解できるよう、表示する要素は最小限に絞る勇気も必要です。
フィードバック:操作が伝わった安心感
「ボタンを押したけど、本当に処理されたのかな?」という不安は、ユーザーを混乱させます。システムがユーザーの操作に対して、きちんと「返事」をすることが重要です。
- 👆 押した感のある演出: ボタンをタップしたら、色が少し変わったり、ブルっと軽く震えたりする。こうした小さなフィードバックが、「あなたの操作を受け付けましたよ」という安心感に繋がります。
- 💬 エラーは分かりやすく: エラー発生時に「エラーコード: E502」とだけ表示されても、誰も対処できません。「ネットワークに接続できません。Wi-Fiの設定を確認してください」のように、何が起きていて、どうすれば良いかを平易な言葉で伝えるべきです。
「使いやすいUI」は最高の投資。データが示すその価値
ここまで具体的な設計ポイントをお話してきましたが、経営者の方にとっては「でも、それってコストがかかるんでしょ?」という点が気になるかもしれません。
結論から言います。優れたUIへの投資は、コストではなく、回収率が極めて高い“戦略的投資”です。
これは精神論ではなく、データが示しています。例えば、UI/UXデザインの世界では有名な調査会社のForrester Researchが、「UI/UXへの1ドルの投資は、100ドルのリターンを生む」というデータを発表しています。にわかには信じがたい数字かもしれませんが、その理由はこうです。
| 優れたUIがもたらす効果 | 具体的なコスト削減・利益向上 |
|---|---|
| 教育コストの削減 | マニュアルを読まなくても直感的に使えるため、新人やパートさんへの教育時間が大幅に短縮。 |
| 作業ミスの減少 | 押し間違いや見落としが減り、農薬の配合ミスや水やりの失敗といった損失を未然に防ぐ。 |
| データ活用の促進 | システムが「面白い」と感じられるようになり、従業員が自発的にデータを分析。収穫量アップのヒントを発見。 |
| 従業員満足度の向上 | 日々の作業ストレスが軽減され、離職率の低下やモチベーションアップに繋がる。 |
農業IoTシステム導入の費用対効果を語る記事は多いですが、その計算に「UIの良し悪し」という変数が含まれていることは稀です。しかし、実際にはUIこそが、その投資効果を何倍にも増幅させる“隠れたレバレッジ”なのです。
開発パートナー選びは「畑の話」ができるかで決める

「よし、UIの重要性は分かった。じゃあ、どこに頼めばいいんだ?」という次のステップに進む方へ。最後に、良い開発パートナーを見極めるための、たった一つのシンプルな質問を伝授します。
それは、
「うちの畑の課題について、一緒に考えてくれますか?」です。
優れた技術力を持っている会社はたくさんあります。しかし、本当に必要なのは、私たちの現場である「畑」に寄り添い、農業特有の課題を自分のこととして考えてくれるパートナーです。
- カタログ通りの機能説明しかしない
- 「専門用語」が多く、こちらの話を理解しようとしない
- 現場を見ずに、オフィスだけで設計しようとする
もし、こんな素振りを見せる相手なら、少し考え直した方がいいかもしれません。
私たちpicks designは、BtoBの複雑な業務システムを、現場の方々が本当に使えるUIへとデザインし続けてきました。その経験から言えるのは、最高のUIは、ユーザーとの対話からしか生まれないということです。もし、「自社のシステムをもっと使いやすくしたい」「データ活用で、もう一歩先の農業を目指したい」とお考えでしたら、ぜひ一度、皆さんの「畑の話」をお聞かせください。一緒に汗をかく準備はできています。
picks designのUI/UXデザインサービスについて、詳しくはこちらのページをご覧ください。
まずは情報収集から、という方も歓迎です。お気軽にご相談ください。
まとめ:UIは、土と人とテクノロジーを繋ぐ架け橋
いかがでしたでしょうか。今回は、農業IoTシステムにおけるUIデザインの重要性と、その具体的な設計ポイントについて、かなり踏み込んでお話してきました。
重要なポイントをもう一度おさらいしましょう。
- 情報設計: データは「伝える」設計で、一目でわかるダッシュボードを。
- アクセシビリティ: 年齢に関係なく、誰もが迷わないデザインを。
- 操作性: 農業現場の過酷な利用シーンを想定した工夫を。
- 視認性: 屋外でも確実に情報が読み取れる画面を。
- フィードバック: 操作が伝わった安心感と、分かりやすいエラー表示を。
スマート農業やアグリテックという言葉が先行しがちですが、そのテクノロジーと、日々土に触れる農業従事者とを繋ぐ「架け橋」こそがUIです。この架け橋が、細く、頼りなく、渡りにくいものであっては、せっかくのテクノロジーも対岸の火事で終わってしまいます。
私たちは、太く、頑丈で、誰もが安心して渡れる架け橋、すなわち最高の農業IoTシステムUIをデザインすることで、日本の農業がより豊かで、持続可能な産業へと発展していくお手伝いができると信じています。この記事が、その一助となれば幸いです。







