製造業の生産性を変えるアプリ設計|現場の課題解決ガイド

  • 2025.6.24
  • 製造業DX
  • デザイン

そのアプリ、現場で本当に使えますか?

「よし、会社もDXだ!現場のペーパーレス化のために、新しいアプリを導入するぞ!」

意気揚々とスタートしたはいいものの、数ヶ月後には誰も使わなくなり、結局もとの紙とペンに戻ってしまった…。製造業のマネージャーなら、一度はこんなホロ苦い経験、もしくはそれに近い話を聞いたことがあるかもしれませんね。ぶっちゃけ、よくある話なんです。

なぜ、鳴り物入りで導入したはずのアプリが、工場の片隅でホコリをかぶってしまうのか。その原因は、アプリの機能不足やバグだけではありません。むしろ、もっと根深い問題、つまり「製造現場のリアルを無視したアプリ設計」にあることがほとんどです。

この記事では、単なる「見た目がキレイなアプリ」の作り方ではなく、油と汗にまみれた現場で、本当に作業員の助けとなり、会社の生産性をグッと引き上げる「使えるアプリ」をどう設計していくか、その具体的な方法論を、私の経験も交えながらお話ししていきたいと思います。読み終わる頃には、きっと次の打ち手が見えているはずです。


なぜ今、製造業の「アプリデザイン」が勝負の分かれ目なのか

「うちは昔ながらのやり方でやってきたし、それで問題なかった」…そう思う気持ちも分かります。しかし、時代は待ってくれません。2025年の今、製造業を取り巻く環境は、数年前とは比べ物にならないほど厳しく、そして複雑になっています。

  • 深刻化する人手不足と技術継承: ベテランの職人さんが定年を迎え、その「匠の技」が失われていく。若い世代はなかなか定着しない。これは、もはや日本中の工場の共通の悩みです。
  • グローバルな競争激化: 海外の安価な製品との競争、そして顧客の要求はますます高度化・短納期化しています。
  • DXの波: そして、決定的なのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の大きな波です。JEITAの調査によれば、国内のDX関連市場は前年比115.4%と急成長しており、特に製造業を含む民需がこの流れを牽引しています。つまり、ライバルたちは、もうデジタル武装を始めているのです。

こうした荒波の中で、「勘と経験」だけに頼ったオペレーションは限界を迎えています。そこで登場するのが業務改善アプリですが、ここが重要なポイント。ただ導入するだけではダメで、その「UI/UXデザイン」こそが、投資を成功させるか失敗させるかの分かれ道になるのです。良いデザインは、新人でもベテランと同じように作業できる環境を作り、ヒューマンエラーを劇的に減らします。

まさに、アプリデザインは、現代の製造業における生命線と言っても過言ではないでしょう。


ありがちだけど、一番怖い。「失敗するアプリ設計」3つの落とし穴

成功事例を見る前に、まずは「これをやったら絶対コケる」という失敗パターンを知っておきましょう。反面教師から学ぶことは多いですからね。私がこれまで見てきた中で、特に多いのがこの3つの落とし穴です。

  1. 1. 「見た目だけ」重視のオフィス発想デザイン

    IT企業のオフィスで作られたような、オシャレでスマートなデザイン。一見すると良さそうですが、これが最大の罠。現場では軍手や油で汚れた手で操作するのが当たり前。そんな環境で、小さなボタンや複雑なスワイプ操作が求められたら…?想像するだけで、イライラしてアプリを投げ捨てたくなりますよね。

  2. 2. 「機能てんこ盛り」で、結局何がしたいかわからない

    「あれもこれもできた方が便利だろう」という善意から生まれる悲劇です。機能が多すぎると、画面は複雑になり、本当に必要な機能がどこにあるか分からなくなります。現場の作業員は、マニュアルを熟読する時間なんてありません。「一目で見て、直感的に使える」シンプルさが、何よりも正義なのです。

  3. 3. 「現場ヒアリング」を軽視したトップダウン開発

    経営層や管理部門だけで仕様を決めてしまい、実際にアプリを使う現場の作業員の声を聞かないケース。業務の細かい流れや、現場ならではの「暗黙のルール」を無視したアプリは、必ず業務フローに歪みを生じさせ、かえって生産性を落とす結果になります。


これだけは守れ!現場で愛される「製造業アプリ設計」5つの鉄則

では、どうすれば失敗を避け、現場で「これ、めっちゃ使いやすいじゃん!」と喜ばれるアプリを設計できるのでしょうか。私が考える、絶対に外せない5つの鉄則を共有します。難しい話ではありません。当たり前のようで、意外と見過ごされがちなポイントばかりです。

鉄則具体的なアクションなぜ重要か?
1. とにかくデカく、シンプルにボタンや文字は、必要以上に大きく設計する。1画面1アクションを基本とする。軍手での操作、薄暗い環境、移動中の確認など、製造現場の厳しい利用シーンを想定すると、視認性と操作の確実性が最優先されるから。
2. 色と音で「直感」に訴える正常なら、異常なら、警告なら黄色、といったように、ステータスを色で明確に表現する。操作完了時に短い効果音やバイブレーションでフィードバックする。読ませるのではなく、感じさせるデザイン。作業員は常に画面を注視できるわけではない。色と音によるフィードバックは、状況の瞬間的な理解を助ける。
3. 「オフライン」でも動くのが当たり前倉庫の奥や、巨大な機械の陰など、Wi-Fiが不安定な場所でも、最低限の機能(データ入力など)は動作するように設計し、オンライン復帰時に同期させる。「電波がないから使えません」は、現場では通用しない言い訳。業務を止めないことが、信頼されるツールの絶対条件。
4. 「間違えさせない」工夫を凝らす入力ミスが許されない項目では、キーボード入力ではなく選択式にする(ポカヨケ)。重要な操作の前には「本当によろしいですか?」という確認ダイアログを挟む。ヒューマンエラーは起こるもの、という前提に立つ。エラーを個人の責任にせず、システム側で未然に防ぐ「フェイルセーフ」の発想が重要。
5. 「導入して終わり」にしないアプリの利用状況データを収集・分析する仕組みを必ず組み込む。「どの機能がよく使われているか」「どこでユーザーが操作を諦めているか」を把握し、継続的にカイゼンする。現場は生き物。業務の変化に合わせてアプリも成長させる必要がある。データに基づいた継続的な改善(カイゼン)サイクルこそが、アプリの価値を持続させる。

「部長、この投資は回収できます」ROIを武器にする説得術

素晴らしいアプリの設計図が描けても、最終関門である「予算の承認」をクリアしなければ絵に描いた餅。ここで経営層を説得するための武器が「ROI(投資対効果)」です。感情論ではなく、数字で語りましょう。

Forrester Researchの調査によれば、「UI/UXへの1ドルの投資は、100ドルのリターンを生む」とされています。ROIにして9,900%。もちろんこれは最大値ですが、デザインへの投資が、いかに莫大なリターンを生むポテンシャルを秘めているかが分かりますよね。より詳しいデータや事例については、こちらの記事も参考にしてみてください。

UI/UX改善がもたらす投資対効果(ROI)の実証データはこちら

では、具体的にどう計算するのか。例えば、こんな風にストーリーを組み立ててみてはどうでしょうか。

「部長、現在、製品Aの検査工程では、1日に平均5件の入力ミスが発生し、その手戻りコストは月間20万円に上っています。今回提案するアプリは、入力ミスを未然に防ぐ『ポカヨケ設計』を取り入れており、ミスを90%削減できると見込んでいます。これにより、月間18万円、年間216万円の直接的なコスト削減が可能です。アプリの開発費用は500万円ですが、これだけで2年半以内に回収できます。さらに、作業時間が10%短縮されることによる生産性向上を人件費に換算すると…」

このように、現状の課題(ペイン)を金額換算し、アプリ導入によって得られる具体的な改善効果(リターン)を金額で示すことが、何よりの説得材料になります。


実践!明日から使える「現場起点」のアプリ設計4ステップ

理屈は分かった。じゃあ、具体的に何から始めればいいのか?ここでは、私たちがプロジェクトを進める際に実践している、シンプルな4つのステップをご紹介します。

ステップ1:とにかく「現場」を歩き、見る、聞く

机の上で仕様書を眺めていても、リアルな課題は見えてきません。まずは安全靴を履いて現場へ行きましょう。作業員の方と同じ目線で、一日中その作業を観察させてもらう。彼らが何に困り、どんな「ちょっとした工夫」で乗り切っているのか。メモや写真、動画を撮りながら、徹底的にインプットします。「そんなことまで?」と言われるくらい、しつこく質問するのがコツです。

ステップ2:極限までシンプルな「紙プロトタイプ」で試す

いきなりPCで綺麗なデザインを作る必要はありません。手書きのスケッチや、紙に描いた画面を切り貼りした「紙芝居」のようなもので十分。それを現場に持っていき、作業員の方に実際に指で操作してもらいます。「このボタン、押しにくいな」「次はどの画面が出ると分かりやすい?」といった、生々しいフィードバックを、コストをかけずに大量に集めることができます。

ステップ3:「動くモックアップ」で手触りを確認

紙での検証が終わったら、Figmaなどのツールを使って、実際にタップすると画面が遷移する「動くモックアップ」を作成します。ここで初めて、実際のデバイス上での操作感や、画面遷移の分かりやすさを、よりリアルに近い形で検証します。開発に入る前の、最後の品質チェックです。

ステップ4:最小限の機能で「リリース」し、現場で育てる

最初から100点満点のアプリを目指す必要はありません。まずは、最も重要な課題を解決する最小限の機能(MVP: Minimum Viable Product)だけを実装してリリースします。そして、実際の現場で使ってもらいながら、「鉄則5」で述べたようにデータを収集し、ユーザーからのフィードバックを元に、アジャイルに機能を追加・改善していく。まさに、現場と一緒にアプリを「育てていく」感覚です。


複雑なものを、シンプルに。デザインの本質はそこにある

「でも、うちの業務は特殊で、かなり複雑なんだよな…」

そう思われるかもしれません。製造業の業務システムは、確かに複雑なものが多いです。しかし、複雑なものを、いかにシンプルに、分かりやすく伝えるか。それこそがデザインの本質だと、私は考えています。

例えば、これはアプリの事例ではありませんが、私たちが以前担当した、ナノテクノロジーという非常に専門的な素材を扱う「ファイバークレーズ株式会社」様のブランディングの仕事が参考になるかもしれません。そこでは、目に見えないほど微細な技術の価値や優位性を、専門家でない人にも直感的に理解してもらうための情報設計とビジュアル表現が求められました。

この「複雑なものを紐解き、本質を捉え、誰もが理解できる形に再構築する」というプロセスは、製造現場のアプリ設計と全く同じです。複雑な工程管理、入り組んだ部品構成、難解な専門用語…。それらをそのままアプリに押し込むのではなく、デザイナーが一度翻訳し、作業員が本当に必要とする情報だけを、最も分かりやすい形にして届ける。その「翻訳者」としての役割こそ、私たちデザイナーが提供できる最大の価値なのです。

ファイバークレーズ株式会社様の実績詳細はこちら


まとめ:アプリ設計は、未来の工場への投資である

長々とお話ししてきましたが、伝えたかったことは非常にシンプルです。

製造業におけるアプリ設計の成功は、技術力だけでなく、
いかに深く現場を理解し、作業員一人ひとりに寄り添えるかにかかっている。

ただのデジタルツールとしてではなく、現場の頼れる「相棒」として、そして会社の未来を創る「戦略的投資」として、アプリデザインを捉え直してみてはいかがでしょうか。

もちろん、「何から手をつければ良いかわからない」「自社の業務に合ったアプリが作れるか不安」といった段階でも全く問題ありません。むしろ、そこからご相談いただくのがベストです。

まずは、あなたの工場の話を聞かせてください。

UIUXデザイン実績
  • 2025.6.24
  • 製造業DX
  • デザイン

そのアプリ、現場で本当に使えますか?

「よし、会社もDXだ!現場のペーパーレス化のために、新しいアプリを導入するぞ!」

意気揚々とスタートしたはいいものの、数ヶ月後には誰も使わなくなり、結局もとの紙とペンに戻ってしまった…。製造業のマネージャーなら、一度はこんなホロ苦い経験、もしくはそれに近い話を聞いたことがあるかもしれませんね。ぶっちゃけ、よくある話なんです。

なぜ、鳴り物入りで導入したはずのアプリが、工場の片隅でホコリをかぶってしまうのか。その原因は、アプリの機能不足やバグだけではありません。むしろ、もっと根深い問題、つまり「製造現場のリアルを無視したアプリ設計」にあることがほとんどです。

この記事では、単なる「見た目がキレイなアプリ」の作り方ではなく、油と汗にまみれた現場で、本当に作業員の助けとなり、会社の生産性をグッと引き上げる「使えるアプリ」をどう設計していくか、その具体的な方法論を、私の経験も交えながらお話ししていきたいと思います。読み終わる頃には、きっと次の打ち手が見えているはずです。


なぜ今、製造業の「アプリデザイン」が勝負の分かれ目なのか

「うちは昔ながらのやり方でやってきたし、それで問題なかった」…そう思う気持ちも分かります。しかし、時代は待ってくれません。2025年の今、製造業を取り巻く環境は、数年前とは比べ物にならないほど厳しく、そして複雑になっています。

  • 深刻化する人手不足と技術継承: ベテランの職人さんが定年を迎え、その「匠の技」が失われていく。若い世代はなかなか定着しない。これは、もはや日本中の工場の共通の悩みです。
  • グローバルな競争激化: 海外の安価な製品との競争、そして顧客の要求はますます高度化・短納期化しています。
  • DXの波: そして、決定的なのが「DX(デジタルトランスフォーメーション)」の大きな波です。JEITAの調査によれば、国内のDX関連市場は前年比115.4%と急成長しており、特に製造業を含む民需がこの流れを牽引しています。つまり、ライバルたちは、もうデジタル武装を始めているのです。

こうした荒波の中で、「勘と経験」だけに頼ったオペレーションは限界を迎えています。そこで登場するのが業務改善アプリですが、ここが重要なポイント。ただ導入するだけではダメで、その「UI/UXデザイン」こそが、投資を成功させるか失敗させるかの分かれ道になるのです。良いデザインは、新人でもベテランと同じように作業できる環境を作り、ヒューマンエラーを劇的に減らします。

まさに、アプリデザインは、現代の製造業における生命線と言っても過言ではないでしょう。


ありがちだけど、一番怖い。「失敗するアプリ設計」3つの落とし穴

成功事例を見る前に、まずは「これをやったら絶対コケる」という失敗パターンを知っておきましょう。反面教師から学ぶことは多いですからね。私がこれまで見てきた中で、特に多いのがこの3つの落とし穴です。

  1. 1. 「見た目だけ」重視のオフィス発想デザイン

    IT企業のオフィスで作られたような、オシャレでスマートなデザイン。一見すると良さそうですが、これが最大の罠。現場では軍手や油で汚れた手で操作するのが当たり前。そんな環境で、小さなボタンや複雑なスワイプ操作が求められたら…?想像するだけで、イライラしてアプリを投げ捨てたくなりますよね。

  2. 2. 「機能てんこ盛り」で、結局何がしたいかわからない

    「あれもこれもできた方が便利だろう」という善意から生まれる悲劇です。機能が多すぎると、画面は複雑になり、本当に必要な機能がどこにあるか分からなくなります。現場の作業員は、マニュアルを熟読する時間なんてありません。「一目で見て、直感的に使える」シンプルさが、何よりも正義なのです。

  3. 3. 「現場ヒアリング」を軽視したトップダウン開発

    経営層や管理部門だけで仕様を決めてしまい、実際にアプリを使う現場の作業員の声を聞かないケース。業務の細かい流れや、現場ならではの「暗黙のルール」を無視したアプリは、必ず業務フローに歪みを生じさせ、かえって生産性を落とす結果になります。


これだけは守れ!現場で愛される「製造業アプリ設計」5つの鉄則

では、どうすれば失敗を避け、現場で「これ、めっちゃ使いやすいじゃん!」と喜ばれるアプリを設計できるのでしょうか。私が考える、絶対に外せない5つの鉄則を共有します。難しい話ではありません。当たり前のようで、意外と見過ごされがちなポイントばかりです。

鉄則具体的なアクションなぜ重要か?
1. とにかくデカく、シンプルにボタンや文字は、必要以上に大きく設計する。1画面1アクションを基本とする。軍手での操作、薄暗い環境、移動中の確認など、製造現場の厳しい利用シーンを想定すると、視認性と操作の確実性が最優先されるから。
2. 色と音で「直感」に訴える正常なら、異常なら、警告なら黄色、といったように、ステータスを色で明確に表現する。操作完了時に短い効果音やバイブレーションでフィードバックする。読ませるのではなく、感じさせるデザイン。作業員は常に画面を注視できるわけではない。色と音によるフィードバックは、状況の瞬間的な理解を助ける。
3. 「オフライン」でも動くのが当たり前倉庫の奥や、巨大な機械の陰など、Wi-Fiが不安定な場所でも、最低限の機能(データ入力など)は動作するように設計し、オンライン復帰時に同期させる。「電波がないから使えません」は、現場では通用しない言い訳。業務を止めないことが、信頼されるツールの絶対条件。
4. 「間違えさせない」工夫を凝らす入力ミスが許されない項目では、キーボード入力ではなく選択式にする(ポカヨケ)。重要な操作の前には「本当によろしいですか?」という確認ダイアログを挟む。ヒューマンエラーは起こるもの、という前提に立つ。エラーを個人の責任にせず、システム側で未然に防ぐ「フェイルセーフ」の発想が重要。
5. 「導入して終わり」にしないアプリの利用状況データを収集・分析する仕組みを必ず組み込む。「どの機能がよく使われているか」「どこでユーザーが操作を諦めているか」を把握し、継続的にカイゼンする。現場は生き物。業務の変化に合わせてアプリも成長させる必要がある。データに基づいた継続的な改善(カイゼン)サイクルこそが、アプリの価値を持続させる。

「部長、この投資は回収できます」ROIを武器にする説得術

素晴らしいアプリの設計図が描けても、最終関門である「予算の承認」をクリアしなければ絵に描いた餅。ここで経営層を説得するための武器が「ROI(投資対効果)」です。感情論ではなく、数字で語りましょう。

Forrester Researchの調査によれば、「UI/UXへの1ドルの投資は、100ドルのリターンを生む」とされています。ROIにして9,900%。もちろんこれは最大値ですが、デザインへの投資が、いかに莫大なリターンを生むポテンシャルを秘めているかが分かりますよね。より詳しいデータや事例については、こちらの記事も参考にしてみてください。

UI/UX改善がもたらす投資対効果(ROI)の実証データはこちら

では、具体的にどう計算するのか。例えば、こんな風にストーリーを組み立ててみてはどうでしょうか。

「部長、現在、製品Aの検査工程では、1日に平均5件の入力ミスが発生し、その手戻りコストは月間20万円に上っています。今回提案するアプリは、入力ミスを未然に防ぐ『ポカヨケ設計』を取り入れており、ミスを90%削減できると見込んでいます。これにより、月間18万円、年間216万円の直接的なコスト削減が可能です。アプリの開発費用は500万円ですが、これだけで2年半以内に回収できます。さらに、作業時間が10%短縮されることによる生産性向上を人件費に換算すると…」

このように、現状の課題(ペイン)を金額換算し、アプリ導入によって得られる具体的な改善効果(リターン)を金額で示すことが、何よりの説得材料になります。


実践!明日から使える「現場起点」のアプリ設計4ステップ

理屈は分かった。じゃあ、具体的に何から始めればいいのか?ここでは、私たちがプロジェクトを進める際に実践している、シンプルな4つのステップをご紹介します。

ステップ1:とにかく「現場」を歩き、見る、聞く

机の上で仕様書を眺めていても、リアルな課題は見えてきません。まずは安全靴を履いて現場へ行きましょう。作業員の方と同じ目線で、一日中その作業を観察させてもらう。彼らが何に困り、どんな「ちょっとした工夫」で乗り切っているのか。メモや写真、動画を撮りながら、徹底的にインプットします。「そんなことまで?」と言われるくらい、しつこく質問するのがコツです。

ステップ2:極限までシンプルな「紙プロトタイプ」で試す

いきなりPCで綺麗なデザインを作る必要はありません。手書きのスケッチや、紙に描いた画面を切り貼りした「紙芝居」のようなもので十分。それを現場に持っていき、作業員の方に実際に指で操作してもらいます。「このボタン、押しにくいな」「次はどの画面が出ると分かりやすい?」といった、生々しいフィードバックを、コストをかけずに大量に集めることができます。

ステップ3:「動くモックアップ」で手触りを確認

紙での検証が終わったら、Figmaなどのツールを使って、実際にタップすると画面が遷移する「動くモックアップ」を作成します。ここで初めて、実際のデバイス上での操作感や、画面遷移の分かりやすさを、よりリアルに近い形で検証します。開発に入る前の、最後の品質チェックです。

ステップ4:最小限の機能で「リリース」し、現場で育てる

最初から100点満点のアプリを目指す必要はありません。まずは、最も重要な課題を解決する最小限の機能(MVP: Minimum Viable Product)だけを実装してリリースします。そして、実際の現場で使ってもらいながら、「鉄則5」で述べたようにデータを収集し、ユーザーからのフィードバックを元に、アジャイルに機能を追加・改善していく。まさに、現場と一緒にアプリを「育てていく」感覚です。


複雑なものを、シンプルに。デザインの本質はそこにある

「でも、うちの業務は特殊で、かなり複雑なんだよな…」

そう思われるかもしれません。製造業の業務システムは、確かに複雑なものが多いです。しかし、複雑なものを、いかにシンプルに、分かりやすく伝えるか。それこそがデザインの本質だと、私は考えています。

例えば、これはアプリの事例ではありませんが、私たちが以前担当した、ナノテクノロジーという非常に専門的な素材を扱う「ファイバークレーズ株式会社」様のブランディングの仕事が参考になるかもしれません。そこでは、目に見えないほど微細な技術の価値や優位性を、専門家でない人にも直感的に理解してもらうための情報設計とビジュアル表現が求められました。

この「複雑なものを紐解き、本質を捉え、誰もが理解できる形に再構築する」というプロセスは、製造現場のアプリ設計と全く同じです。複雑な工程管理、入り組んだ部品構成、難解な専門用語…。それらをそのままアプリに押し込むのではなく、デザイナーが一度翻訳し、作業員が本当に必要とする情報だけを、最も分かりやすい形にして届ける。その「翻訳者」としての役割こそ、私たちデザイナーが提供できる最大の価値なのです。

ファイバークレーズ株式会社様の実績詳細はこちら


まとめ:アプリ設計は、未来の工場への投資である

長々とお話ししてきましたが、伝えたかったことは非常にシンプルです。

製造業におけるアプリ設計の成功は、技術力だけでなく、
いかに深く現場を理解し、作業員一人ひとりに寄り添えるかにかかっている。

ただのデジタルツールとしてではなく、現場の頼れる「相棒」として、そして会社の未来を創る「戦略的投資」として、アプリデザインを捉え直してみてはいかがでしょうか。

もちろん、「何から手をつければ良いかわからない」「自社の業務に合ったアプリが作れるか不安」といった段階でも全く問題ありません。むしろ、そこからご相談いただくのがベストです。

まずは、あなたの工場の話を聞かせてください。

UIUXデザイン実績