UI/UXデザイン発注の知的財産権トラブルを防ぐ完全ガイド【法務・発注担当者必見】

  • 2025.4.19
  • UI/UXデザイントラブル法務発注知的財産権
  • デザイン
  • 新規事業

UI/UXデザイン発注における知的財産権問題の現状

 

最近、あるクライアントから相談を受けました。「外注したUIデザインの権利関係があいまいで、アプリのアップデート時に追加料金を請求された」というケースです。これは珍しい話ではありません。

実際、UI/UXデザインの発注において、知的財産権の取り扱いを明確にしないまま進めるケースが増加しています。​デジタルコンテンツに関する権利問題への適切な対応が求められる中、​特にスタートアップ企業やDX推進中の従来企業での注意が必要です。

UI/UXデザインは単なる「見た目」ではなく、ビジネスの競争力に直結する重要な知的財産です。にもかかわらず、多くの企業が次のような課題に直面しています:

  • 契約書に権利帰属条項がない、またはあいまい
  • デザイン要素ごとの権利区分が不明確
  • 二次利用・改変権の範囲が限定的
  • 海外発注における法律の違いに無自覚

私自身、法務アドバイザーとして数十件のUI/UX関連契約を見てきましたが、特に中小企業では「とりあえず発注して、あとは考える」という危険なアプローチが目立ちます。本記事では、そんな企業法務・発注担当者の方々に向けて、トラブルを未然に防ぐための実践的知識をお伝えします。

UI/UXデザインに関わる知的財産権の種類と保護範囲

UI/UXデザインは複数の知的財産権が複雑に絡み合う領域です。まずは基本となる権利の種類を整理しましょう。

主要な知的財産権とUI/UX要素の対応

知的財産権保護対象となるUI/UX要素保護期間権利の特徴
著作権アイコン、イラスト、独自フォント、独創的レイアウト著作者の死後70年登録不要で自動的に発生
意匠権画面デザイン、アイコンセット、GUI出願から25年登録が必要、視覚的デザイン保護
商標権ロゴ、ブランド要素、特徴的なUI要素10年(更新可能)出所表示機能を持つ要素
特許権UXの機能的側面、操作方法出願から20年技術的側面の保護

実はUI/UXデザインにおいて、多くの企業が見落としがちなのが著作権と意匠権の使い分けです。私の経験では、日本企業はアプリやWebサイトのUIデザインを著作権だけで保護しようとする傾向がありますが、実は意匠権による保護も検討すべきケースが多いんです。

2020年の意匠法改正により、画像デザインの保護範囲が拡大され、これまで物品に表示される画像に限定されていた保護が、クラウド上の画像や投影画像などにも適用されるようになりました。この法改正を認識せずに契約を結ぶと、思わぬ権利トラブルが発生する可能性があります。

契約書に明記すべき権利帰属の重要条項

「契約書作成って面倒だから、標準テンプレートでいいか」

こんな思いで契約を軽視すると、後で痛い目を見ます。私が関わったあるケースでは、契約書のテンプレートをそのまま使ったために、デザイン会社に著作権が残ってしまい、競合サービスに類似したUIが使われるという事態が発生しました。

以下は、UI/UXデザイン発注時に契約書に必ず含めるべき条項です:

1. 権利帰属の明確化

第○条(著作権等の帰属)
本契約に基づき制作された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)その他一切の知的財産権は、発注者に帰属するものとする。

「その他一切の知的財産権」という表現に注目してください。著作権だけでなく、意匠権や特許権になり得る要素も含めて権利を確保しましょう。

2. 二次利用・改変権の設定

将来のリニューアルや機能追加、マルチプラットフォーム展開を見据えて、改変権や二次利用権の範囲を明確にすることも重要です。特に注意したいのは「別プロジェクトでの流用」や「サブブランドへの展開」など、契約時点では想定していなかった用途です。

3. 第三者の権利侵害に関する保証

受託者(デザイン会社・フリーランス)が第三者の知的財産権を侵害していないことの保証と、万が一侵害があった場合の責任の所在を明確にする条項も必須です。

外注タイプ別の権利保護戦略

発注先によって契約アプローチを変えるべきことは、意外と知られていません。私が多くの企業と仕事をする中で見てきた、発注先タイプ別の注意点をまとめました。

デザイン会社・制作会社への発注

大手デザイン会社は独自の契約雛形を持っていることが多く、往々にして制作会社有利な内容になっています。私が最近チェックした契約書では「デザインコンセプトの著作権は制作会社に帰属」という条項があり、クライアントは気づかずにサインしようとしていました。これは将来的に類似デザインが他社に提供される可能性を残す危険な条項です。

会社規模が大きいほど交渉力は必要ですが、最低限次の点は譲らないようにしましょう:

  • 成果物の著作権の全面譲渡(可能な限り二次的著作物の作成権も含む)
  • 類似デザインの競合他社への提供禁止条項
  • デザインコンセプト・UXフローの独占利用権

フリーランスデザイナーへの発注

フリーランスデザイナーとの契約では別の問題が生じます。彼らは多くの場合、自分のポートフォリオに制作物を掲載したいと考えています。これを全面的に禁止すると優秀なデザイナーの確保が難しくなるジレンマがあります。

私のクライアントでは次のようなバランスの取れた条項を採用しています:

第○条(ポートフォリオ利用)
デザイナーは、発注者の事前の書面による承諾を得た上で、成果物を自己の実績として紹介することができる。ただし、発注者が機密保持を要請した部分については、この限りではない。

権利侵害リスクを防ぐ実務上のチェックポイント

契約書を整備しても、実務プロセスでチェックを怠ると思わぬ権利侵害リスクが生じます。私が法務顧問を務める企業で実際に起きた事例から学んだ教訓をお伝えします。

デザイン素材の出所確認

昨年、あるクライアントが海外のデザイナーに発注したUIキットが、実は有料素材の無断流用だったことが発覚。結果として5万ドル以上の賠償金支払いに発展しました。これを防ぐためのチェックリストです:

使用素材のライセンス確認(商用利用可能か)

ストック素材のライセンス範囲の確認(ユーザー数制限など)

オープンソース素材・フレームワークのライセンス条件確認

アイコン・フォントの権利関係の明確化

デザインプロセスでの権利確保

デザイン進行中にも権利確保のための措置が必要です:

  1. 中間成果物の権利確保:ラフスケッチやワイヤーフレームなど
  2. 参考にした競合サイト・アプリの明記:意図せぬ模倣を防ぐ
  3. デザイン決定プロセスの記録保持:権利侵害の申し立てに対する防御材料に

海外デザイナー起用時の追加注意点

「安いから」という理由だけで海外デザイナーを起用する企業が増えていますが、知財の観点からは要注意です。国によって著作権の考え方が異なり、「譲渡」の解釈も違います。例えば中国の場合、著作権譲渡契約は書面で行い、著作権局に登録することで第三者対抗要件が発生する点が日本と大きく異なります。

トラブル事例から学ぶ知的財産権紛争の回避策

実際に起きたトラブル事例を分析することで、より具体的な対策が見えてきます。私が関わった実例をもとに解説します。

事例1:「権利の一部譲渡」の落とし穴

あるベンチャー企業がデザイン会社にWebアプリのUI制作を依頼。契約書には「デザイン成果物の著作権は発注者に譲渡する」と記載されていましたが、「構成要素」について明記がなかったため、アイコンセットの権利がデザイン会社に残り、後日別クライアントへの提供で問題に。

教訓: 「成果物」の定義と範囲を契約書で明確にし、構成要素やソースファイルまで含めること。

事例2:改変権の制限によるアップデート困難

金融系アプリを開発した企業が、バージョンアップの際に当初のデザイナーに連絡が取れず、UIを改変できないという事態に。契約書で「改変には原著作者の許諾が必要」という条項を見落としていたことが原因。

教訓: 著作者人格権(同一性保持権)不行使特約を契約に含めること。

第○条(著作者人格権の不行使)
乙(デザイナー)は、成果物に関する著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を行使しないものとする。

事例3:社外秘情報を含むUIデザインの流出

業務用システムのUIデザインをフリーランスに依頼したところ、デザイナーがポートフォリオサイトに掲載。画面には社内の機密データが表示されていた。

教訓: NDA(機密保持契約)とポートフォリオ掲載の制限・確認プロセスを契約に明記。

知的財産権を最大化するUI/UXデザイン発注の実践的アプローチ

知的財産権の保護だけを考えると、厳格すぎる契約になりがちですが、それではクリエイティブな提案が得られないジレンマがあります。私が推奨する実践的アプローチをご紹介します。

Win-Winの権利配分

発注側が全ての権利を独占するのではなく、一部の権利をデザイナー側に残すことで、より良い関係構築が可能です。例えば:

  • コンセプトレベルの権利は共有し、具体的実装の権利は発注者が保有
  • 汎用的なUIコンポーネントは再利用可能とし、サービス固有の要素は独占
  • ポートフォリオ掲載権はデザイナーに認めつつ、掲載前の確認プロセスを設ける

段階的な権利取得アプローチ

全ての権利を初期段階で獲得しようとすると、コストが膨らみます。特にスタートアップなどの予算制約がある場合は、段階的な権利取得も検討価値があります:

初期フェーズ

基本的な利用権のみ確保(コスト低減)

成長フェーズ

二次利用権など権利範囲を拡大

成功フェーズ

完全な権利譲渡を実施

長期的なデザインパートナーシップの構築

実は、多くの権利問題は信頼関係の欠如から生じます。私の経験では、長期的なパートナーシップを前提とした契約アプローチが結果的に権利問題を減らし、ビジネス成果を最大化します。

具体的には:

  • 初回から厳格な権利譲渡ではなく、継続的な関係を前提とした柔軟な契約
  • 権利料の段階的支払いモデル(ロイヤリティ型など)
  • デザイナーのビジネス理解を深める共創プロセスの導入

まとめ:UI/UXデザイン発注における知的財産権マネジメント

UI/UXデザインの発注における知的財産権問題は、単なる法務リスクではなく、ビジネス価値を最大化するための重要な経営課題です。本記事を通じて解説した要点をおさらいしましょう:

  1. 権利の種類と保護範囲を理解する:著作権だけでなく、意匠権や商標権も視野に
  2. 契約書の重要条項を押さえる:権利帰属、二次利用、改変権の明確化
  3. 発注先タイプ別の戦略を持つ:制作会社、フリーランス、海外デザイナーへの対応
  4. 実務上のチェックポイントを徹底する:素材の出所確認、プロセス管理
  5. トラブル事例から学ぶ:他社の失敗を自社の教訓に
  6. Win-Winの権利配分を目指す:長期的パートナーシップの構築

私たちの会社では、これらの知見を活かしたUI/UXデザイン発注コンサルティングサービスを提供しています。契約書のレビューから、権利関係のリスクアセスメント、デザイナー選定のアドバイスまで、御社のデジタル資産を最大限保護するお手伝いをいたします。

特に最近は、グローバル展開を視野に入れた知的財産権戦略のニーズが高まっていますが、国際的な権利保護には日本国内とは異なるアプローチが必要です。弊社の国際知財専門チームがサポートいたしますので、ぜひお気軽に資料請求またはご相談ください。

正しい知的財産権マネジメントが、御社のデジタル競争力を大きく左右します。今日からでも実践できるポイントから始めてみてはいかがでしょうか。

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UI/UXデザイン発注における知的財産権問題の現状

 

最近、あるクライアントから相談を受けました。「外注したUIデザインの権利関係があいまいで、アプリのアップデート時に追加料金を請求された」というケースです。これは珍しい話ではありません。

実際、UI/UXデザインの発注において、知的財産権の取り扱いを明確にしないまま進めるケースが増加しています。​デジタルコンテンツに関する権利問題への適切な対応が求められる中、​特にスタートアップ企業やDX推進中の従来企業での注意が必要です。

UI/UXデザインは単なる「見た目」ではなく、ビジネスの競争力に直結する重要な知的財産です。にもかかわらず、多くの企業が次のような課題に直面しています:

  • 契約書に権利帰属条項がない、またはあいまい
  • デザイン要素ごとの権利区分が不明確
  • 二次利用・改変権の範囲が限定的
  • 海外発注における法律の違いに無自覚

私自身、法務アドバイザーとして数十件のUI/UX関連契約を見てきましたが、特に中小企業では「とりあえず発注して、あとは考える」という危険なアプローチが目立ちます。本記事では、そんな企業法務・発注担当者の方々に向けて、トラブルを未然に防ぐための実践的知識をお伝えします。

UI/UXデザインに関わる知的財産権の種類と保護範囲

UI/UXデザインは複数の知的財産権が複雑に絡み合う領域です。まずは基本となる権利の種類を整理しましょう。

主要な知的財産権とUI/UX要素の対応

知的財産権保護対象となるUI/UX要素保護期間権利の特徴
著作権アイコン、イラスト、独自フォント、独創的レイアウト著作者の死後70年登録不要で自動的に発生
意匠権画面デザイン、アイコンセット、GUI出願から25年登録が必要、視覚的デザイン保護
商標権ロゴ、ブランド要素、特徴的なUI要素10年(更新可能)出所表示機能を持つ要素
特許権UXの機能的側面、操作方法出願から20年技術的側面の保護

実はUI/UXデザインにおいて、多くの企業が見落としがちなのが著作権と意匠権の使い分けです。私の経験では、日本企業はアプリやWebサイトのUIデザインを著作権だけで保護しようとする傾向がありますが、実は意匠権による保護も検討すべきケースが多いんです。

2020年の意匠法改正により、画像デザインの保護範囲が拡大され、これまで物品に表示される画像に限定されていた保護が、クラウド上の画像や投影画像などにも適用されるようになりました。この法改正を認識せずに契約を結ぶと、思わぬ権利トラブルが発生する可能性があります。

契約書に明記すべき権利帰属の重要条項

「契約書作成って面倒だから、標準テンプレートでいいか」

こんな思いで契約を軽視すると、後で痛い目を見ます。私が関わったあるケースでは、契約書のテンプレートをそのまま使ったために、デザイン会社に著作権が残ってしまい、競合サービスに類似したUIが使われるという事態が発生しました。

以下は、UI/UXデザイン発注時に契約書に必ず含めるべき条項です:

1. 権利帰属の明確化

第○条(著作権等の帰属)
本契約に基づき制作された成果物に関する著作権(著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含む)その他一切の知的財産権は、発注者に帰属するものとする。

「その他一切の知的財産権」という表現に注目してください。著作権だけでなく、意匠権や特許権になり得る要素も含めて権利を確保しましょう。

2. 二次利用・改変権の設定

将来のリニューアルや機能追加、マルチプラットフォーム展開を見据えて、改変権や二次利用権の範囲を明確にすることも重要です。特に注意したいのは「別プロジェクトでの流用」や「サブブランドへの展開」など、契約時点では想定していなかった用途です。

3. 第三者の権利侵害に関する保証

受託者(デザイン会社・フリーランス)が第三者の知的財産権を侵害していないことの保証と、万が一侵害があった場合の責任の所在を明確にする条項も必須です。

外注タイプ別の権利保護戦略

発注先によって契約アプローチを変えるべきことは、意外と知られていません。私が多くの企業と仕事をする中で見てきた、発注先タイプ別の注意点をまとめました。

デザイン会社・制作会社への発注

大手デザイン会社は独自の契約雛形を持っていることが多く、往々にして制作会社有利な内容になっています。私が最近チェックした契約書では「デザインコンセプトの著作権は制作会社に帰属」という条項があり、クライアントは気づかずにサインしようとしていました。これは将来的に類似デザインが他社に提供される可能性を残す危険な条項です。

会社規模が大きいほど交渉力は必要ですが、最低限次の点は譲らないようにしましょう:

  • 成果物の著作権の全面譲渡(可能な限り二次的著作物の作成権も含む)
  • 類似デザインの競合他社への提供禁止条項
  • デザインコンセプト・UXフローの独占利用権

フリーランスデザイナーへの発注

フリーランスデザイナーとの契約では別の問題が生じます。彼らは多くの場合、自分のポートフォリオに制作物を掲載したいと考えています。これを全面的に禁止すると優秀なデザイナーの確保が難しくなるジレンマがあります。

私のクライアントでは次のようなバランスの取れた条項を採用しています:

第○条(ポートフォリオ利用)
デザイナーは、発注者の事前の書面による承諾を得た上で、成果物を自己の実績として紹介することができる。ただし、発注者が機密保持を要請した部分については、この限りではない。

権利侵害リスクを防ぐ実務上のチェックポイント

契約書を整備しても、実務プロセスでチェックを怠ると思わぬ権利侵害リスクが生じます。私が法務顧問を務める企業で実際に起きた事例から学んだ教訓をお伝えします。

デザイン素材の出所確認

昨年、あるクライアントが海外のデザイナーに発注したUIキットが、実は有料素材の無断流用だったことが発覚。結果として5万ドル以上の賠償金支払いに発展しました。これを防ぐためのチェックリストです:

使用素材のライセンス確認(商用利用可能か)

ストック素材のライセンス範囲の確認(ユーザー数制限など)

オープンソース素材・フレームワークのライセンス条件確認

アイコン・フォントの権利関係の明確化

デザインプロセスでの権利確保

デザイン進行中にも権利確保のための措置が必要です:

  1. 中間成果物の権利確保:ラフスケッチやワイヤーフレームなど
  2. 参考にした競合サイト・アプリの明記:意図せぬ模倣を防ぐ
  3. デザイン決定プロセスの記録保持:権利侵害の申し立てに対する防御材料に

海外デザイナー起用時の追加注意点

「安いから」という理由だけで海外デザイナーを起用する企業が増えていますが、知財の観点からは要注意です。国によって著作権の考え方が異なり、「譲渡」の解釈も違います。例えば中国の場合、著作権譲渡契約は書面で行い、著作権局に登録することで第三者対抗要件が発生する点が日本と大きく異なります。

トラブル事例から学ぶ知的財産権紛争の回避策

実際に起きたトラブル事例を分析することで、より具体的な対策が見えてきます。私が関わった実例をもとに解説します。

事例1:「権利の一部譲渡」の落とし穴

あるベンチャー企業がデザイン会社にWebアプリのUI制作を依頼。契約書には「デザイン成果物の著作権は発注者に譲渡する」と記載されていましたが、「構成要素」について明記がなかったため、アイコンセットの権利がデザイン会社に残り、後日別クライアントへの提供で問題に。

教訓: 「成果物」の定義と範囲を契約書で明確にし、構成要素やソースファイルまで含めること。

事例2:改変権の制限によるアップデート困難

金融系アプリを開発した企業が、バージョンアップの際に当初のデザイナーに連絡が取れず、UIを改変できないという事態に。契約書で「改変には原著作者の許諾が必要」という条項を見落としていたことが原因。

教訓: 著作者人格権(同一性保持権)不行使特約を契約に含めること。

第○条(著作者人格権の不行使)
乙(デザイナー)は、成果物に関する著作者人格権(公表権、氏名表示権、同一性保持権)を行使しないものとする。

事例3:社外秘情報を含むUIデザインの流出

業務用システムのUIデザインをフリーランスに依頼したところ、デザイナーがポートフォリオサイトに掲載。画面には社内の機密データが表示されていた。

教訓: NDA(機密保持契約)とポートフォリオ掲載の制限・確認プロセスを契約に明記。

知的財産権を最大化するUI/UXデザイン発注の実践的アプローチ

知的財産権の保護だけを考えると、厳格すぎる契約になりがちですが、それではクリエイティブな提案が得られないジレンマがあります。私が推奨する実践的アプローチをご紹介します。

Win-Winの権利配分

発注側が全ての権利を独占するのではなく、一部の権利をデザイナー側に残すことで、より良い関係構築が可能です。例えば:

  • コンセプトレベルの権利は共有し、具体的実装の権利は発注者が保有
  • 汎用的なUIコンポーネントは再利用可能とし、サービス固有の要素は独占
  • ポートフォリオ掲載権はデザイナーに認めつつ、掲載前の確認プロセスを設ける

段階的な権利取得アプローチ

全ての権利を初期段階で獲得しようとすると、コストが膨らみます。特にスタートアップなどの予算制約がある場合は、段階的な権利取得も検討価値があります:

初期フェーズ

基本的な利用権のみ確保(コスト低減)

成長フェーズ

二次利用権など権利範囲を拡大

成功フェーズ

完全な権利譲渡を実施

長期的なデザインパートナーシップの構築

実は、多くの権利問題は信頼関係の欠如から生じます。私の経験では、長期的なパートナーシップを前提とした契約アプローチが結果的に権利問題を減らし、ビジネス成果を最大化します。

具体的には:

  • 初回から厳格な権利譲渡ではなく、継続的な関係を前提とした柔軟な契約
  • 権利料の段階的支払いモデル(ロイヤリティ型など)
  • デザイナーのビジネス理解を深める共創プロセスの導入

まとめ:UI/UXデザイン発注における知的財産権マネジメント

UI/UXデザインの発注における知的財産権問題は、単なる法務リスクではなく、ビジネス価値を最大化するための重要な経営課題です。本記事を通じて解説した要点をおさらいしましょう:

  1. 権利の種類と保護範囲を理解する:著作権だけでなく、意匠権や商標権も視野に
  2. 契約書の重要条項を押さえる:権利帰属、二次利用、改変権の明確化
  3. 発注先タイプ別の戦略を持つ:制作会社、フリーランス、海外デザイナーへの対応
  4. 実務上のチェックポイントを徹底する:素材の出所確認、プロセス管理
  5. トラブル事例から学ぶ:他社の失敗を自社の教訓に
  6. Win-Winの権利配分を目指す:長期的パートナーシップの構築

私たちの会社では、これらの知見を活かしたUI/UXデザイン発注コンサルティングサービスを提供しています。契約書のレビューから、権利関係のリスクアセスメント、デザイナー選定のアドバイスまで、御社のデジタル資産を最大限保護するお手伝いをいたします。

特に最近は、グローバル展開を視野に入れた知的財産権戦略のニーズが高まっていますが、国際的な権利保護には日本国内とは異なるアプローチが必要です。弊社の国際知財専門チームがサポートいたしますので、ぜひお気軽に資料請求またはご相談ください。

正しい知的財産権マネジメントが、御社のデジタル競争力を大きく左右します。今日からでも実践できるポイントから始めてみてはいかがでしょうか。

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