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マルチデバイス時代のUIUXデザイン発注:成功への第一歩
先日、あるECサイトのリニューアルを担当していた知人から悲痛な声が聞こえてきました。「PCではカッコいいデザインなのに、スマホだと操作しづらくて離脱率が跳ね上がっている…」
これ、けっこうありがちな話なんですよね。私も以前、同じ轍を踏みかけました。
現代のウェブサイトは「レスポンシブデザイン」が当たり前。でも実際に発注する立場になると、「何を伝えればいいの?」「これって適正価格?」と頭を抱えることになります。
総務省の2022年通信利用動向調査によれば、インターネット利用者の約87%がスマートフォンを使用し、複数デバイスでのサイト閲覧が標準になっています。つまり、デバイスごとに最適な体験を提供できないサイトは、ビジネスチャンスを逃していると言えるでしょう。
この記事では、レスポンシブUIUXデザインの発注において、準備段階から納品まで、私自身の失敗談も交えながら実践的なステップを解説します。「見積もりの妥当性がわからない」「仕様書の書き方がわからない」といった悩みを解消し、成功プロジェクトへと導く道筋をお示しします。
発注前の準備:ターゲットデバイスとユーザー行動を把握する
「とりあえずレスポンシブで」という発注の仕方が一番危険です。私が以前関わったプロジェクトでは、この「とりあえず」が後々大きな手戻りを生みました。
まず押さえるべきは、自社のユーザーがどんなデバイスをどう使っているかという実態です。Googleアナリティクスなどのデータを見ながら、以下の項目を整理しましょう。
- デバイス別アクセス比率:スマホ・タブレット・PCの割合
- デバイス別滞在時間と直帰率:どのデバイスで離脱が多いか
- デバイス別コンバージョン率:購入や資料請求などの成果指標
- よく使われる画面サイズ:特にスマホの機種別シェア
実際のデータを見ると意外な発見があります。あるBtoBサービスサイトでは「スマホからの問い合わせはないだろう」と思い込んでいましたが、データを見たらスマホからの資料請求が全体の42%を占めていました。これは営業担当が客先でスマホから資料を見せていたという実態があったのです。
こうした調査結果をもとに、「デバイス別優先度マトリックス」を作成するとよいでしょう。下記のような形で整理します:
デバイス別優先度マトリックス例
以下の表を参考に、自社サイトのデバイス戦略を明確にしましょう。
デバイス | アクセス比率 | 主要ユーザー層 | 重視すべき機能 | デザイン優先度 |
---|---|---|---|---|
スマートフォン | 65% | 20-40代女性 | 商品検索、カート | 最優先 |
PC | 30% | 40-50代男性 | 詳細情報閲覧、比較 | 高 |
タブレット | 5% | 50代以上 | 画像閲覧、基本操作 | 中 |
こういったデータをもとに、プロジェクトの目標設定も行います。例えば:
- スマホでのコンバージョン率を現状の2.1%から3.5%に向上させる
- タブレットでの平均セッション時間を1分30秒から2分30秒に延ばす
- PC版での商品詳細ページの直帰率を45%から35%に低減する
具体的な数値目標があると、デザイン会社とのコミュニケーションもスムーズになります。私の経験では、「使いやすいデザインにしてほしい」といった抽象的な依頼より、「スマホでのカート投入率を上げるUI改善」と具体的に伝えたほうが、格段に質の高い提案が返ってきます。
制作会社選定のポイント:ポートフォリオの見方と質問すべきこと
「見た目のかっこよさ」だけで制作会社を選ぶのは危険です。レスポンシブデザインを正しく評価するには、以下のポイントをチェックしましょう。
ポートフォリオの見方
私がよくやるのは、制作会社の実績サイトをスマホとPCの両方で開いて比較することです。そこでチェックするのは:
- 異なるデバイスでの表示崩れはないか
- スマホでのナビゲーションは直感的か
- ロード時間に大きな差はないか(特にスマホで遅くないか)
- タップターゲット(ボタンなど)のサイズは適切か
先日、ある制作会社のポートフォリオを見たところ、PCではかなりリッチなアニメーションが実装されていましたが、スマホでは重すぎて操作がもたついていました。見た目よりも実用性を重視する必要があります。
制作会社への質問リスト
面談時に聞いておくべき技術的な質問:
- レスポンシブデザインの実装方法(フレームワークは何を使用?)
- ブレイクポイントの設定方針(何px単位で切り替え?)
- 画像最適化の対応(Webpやレスポンシブイメージ対応は?)
- フォントサイズの可変対応(remやvwなどの使い方)
- テスト環境と検証方法(どんなデバイスでテストする?)
仕様書作成のコツ:トラブルを防ぐ明確な指示出し
「思っていたのと違う…」というトラブルの多くは、仕様書の曖昧さから生まれます。レスポンシブデザインの仕様書には、以下の要素を必ず含めましょう。
1. デバイス別表示の明確化
「キービジュアルはスマホでは表示しない」「この機能はPCのみ」など、デバイスによる表示/非表示を明記します。下記のような表で整理すると効果的です:
コンテンツ要素 | PC | タブレット | スマホ | 備考 |
---|---|---|---|---|
メインスライダー | 〇 | 〇 | △(簡易版) | スマホでは静止画1枚に |
商品動画 | 〇 | 〇 | × | スマホでは代替テキスト |
お客様の声 | 〇 | 〇 | 〇 | スマホでは1件のみ表示 |
2. ブレイクポイントの指定
「大きいスマホと小さいタブレットの境界はどこ?」という疑問を防ぐため、具体的な数値を指定します:
スマホ版:〜767px
タブレット版:768px〜1023px
PC版:1024px〜
3. インタラクションの詳細指定
以前、「ハンバーガーメニューを設置」とだけ書いたところ、タップ時の動きが想像と違ったという経験があります。アニメーションやインタラクションは言葉だけでなく、参考サイトのURLや簡単なスケッチを添えると誤解が減ります。
見積もり評価のポイント:適正価格と予算配分
レスポンシブデザインの見積もりは、一般的なウェブデザインより15〜30%ほど高くなる傾向があります。これは複数デバイス対応の作業量増加が原因です。
見積もり項目の妥当性チェック
私が実際に受け取った見積書から、必須の項目とよくある過不足をまとめました:
必須項目
- ワイヤーフレーム作成(デバイス別)
- デザインカンプ制作(デバイス別)
- レスポンシブコーディング
- クロスブラウザテスト
- デバイス別動作検証
要注意の追加項目
- 「レスポンシブ対応費」という名目の追加料金
→ これは基本料金に含まれるべき - 「スマホ版デザイン」を別プロジェクトとして計上
→ レスポンシブデザインなら一体で考えるべき
コスト別選択肢の比較
予算に応じた選択肢を比較検討しましょう:
発注形態 | 費用目安 | メリット | デメリット | 適した案件 |
---|---|---|---|---|
フルスクラッチ開発 | 80-150万円~ | 完全オリジナル 細部まで制御可能 | 高コスト 開発期間長い | ブランドサイト 特殊機能必要 |
テンプレート活用 | 30-80万円 | コスト抑制 開発期間短縮 | デザイン自由度制限 カスタマイズ費用発生 | コーポレートサイト 標準的ECサイト |
ノーコードツール | 10-30万円 | 低コスト 短期構築可能 | 機能制限あり 拡張性に難 | ランディングページ 小規模サイト |
納品・検収時のチェックリスト:見落としがちなポイント
「動いているから大丈夫」では不十分です。以下のチェックリストを使って徹底検証しましょう。
デバイス別テスト項目
スマートフォン
- 縦横両方向での表示チェック
- タップターゲットのサイズ(小さすぎないか)
- フォームの入力しやすさ
- ページ読み込み速度(3G回線での動作)
タブレット
- 中間サイズでのレイアウト崩れ
- タッチ操作の反応性
- 縦横切り替え時の挙動
PC
- 大画面での余白バランス
- ウィンドウリサイズ時の動作
- 高解像度ディスプレイでの表示
よくあるトラブル事例と対策
私が経験したトラブルとその解決策をいくつかご紹介します:
事例1:スマホで画像が重すぎる
→ 解決策:画像の自動最適化スクリプトの導入を依頼
事例2:特定の端末だけレイアウトが崩れる
→ 解決策:実機テスト範囲の明確化と検証環境の共有
事例3:フォントサイズがスマホで読みづらい
→ 解決策:最小フォントサイズの指定と可変サイズの導入
これらのトラブルは、発注時にテスト環境や検証項目を明確にしておくことで大幅に減らせます。
まとめ:成功するレスポンシブUIUXデザイン発注の秘訣
本記事でご紹介した内容をおさらいしましょう:
- 事前準備の徹底:ユーザーのデバイス利用実態を把握し、優先度を明確にする
- 制作会社選定:ポートフォリオの実機確認と技術的な質問で本当の実力を見極める
- 仕様書作成:デバイス別の表示内容やブレイクポイントを具体的に指定する
- 見積もり評価:項目の妥当性を確認し、予算に応じた最適な発注形態を選択する
- 納品検収:多様なデバイスでの検証と、よくあるトラブルポイントの確認
レスポンシブUIUXデザインの発注は、単なるデザイン発注以上に技術的な知識と明確な指示が必要です。「なんとなく」を排除し、データと具体的な指示で制作会社とコミュニケーションすることが成功の鍵です。
私たちが手がけたプロジェクトでは、この記事で紹介した方法で発注したサイトは、デバイス間のコンバージョン率の差が従来の半分以下になり、スマホからの離脱率も大幅に改善しました。
あなたのプロジェクトでもぜひこのガイドを参考に、デバイスを問わず最高のユーザー体験を実現してください。もし、専門的なアドバイスが必要でしたら、ぜひ当社の無料相談サービスをご利用ください。経験豊富なUIUXコンサルタントが、あなたのプロジェクトに最適な発注方法をご提案します。

